蟻塚
「毒虫はいる。
刺されても、多分死なないが、大きく腫れて熱が出る。
小さな、カナブンのような形の黒い虫には気を付けろ。
砂漠は元々、生き物は少ないので、後はトカゲや蛇も大人しいものだ。
人と見れば逃げてしまう」
「えーと、砂漠って決定なのかな?」
不安げに問うタッカーに、ミカは、そうよ、と断言した。
「まー、もうちょっと明るいうちなら杣人の村で休めたんだが、あそこは日が落ちたら門を閉めていまい、身内でも開けない。
と、なると、ここで夜明けを待つか、砂漠に行くかなんだが…」
とタフタ。
「ネルロプァにネズミが出た、となると、ここでおちおち寝てもいられんのだ。
俺も砂漠に一票だ」
「まー、砂漠に行くんでもさ」
とチェコがとりなす。
「一旦、少し休めばいいんじゃない?
どうせ、また階段なんでしよ」
いや、とヒヨウ。
「赤竜山の方が、黒龍山より高いからな。
二十回ほど、また階段を降りる事にはなるが、すぐに赤竜山頂上に出る。
どうせなら夜が深まる前に山羊の道を越えた方が良いだろう」
タッカーは、深い溜め息をついた。
「判った。
従うよ…」
皆は、麦煎餅を食べ終わると、腰を上げた。
「今夜中に赤魔湖まで行けるの?」
チェコは聞いた。
「行かねばならない。
夜が明ければ野鬼が動き出す。
その前に、湖の畔にある蟻塚まで行ければ、そこで休むことが出来る。
忙しい夜になるぞ」
「蟻塚?」
チェコが聞くと、ヒヨウは説明した。
「蟻塚を知らないか?
毒蟻の巣が数メートルに育ったものだ。
全て一つの家族の蟻で、巨大なコロニーを作っている。
うっかり近づけば野鬼でも殺される」
「え…。
人間は大丈夫なの?」
「方法があるのだ」




