禁忌
「え、って事は、つまり僕たちは、酒と塩を持って片牙の待つ夜の森に降りるのかい?」
タッカーは不安そうに聞いた。
「砂漠に片牙も出ず、ピンキーたちも手を出せないなら、確かに一考に値するわ。
タッカーが休みたいのは判るけど、朝まで待ったら、何処か杣人の村の前で、必ずピンキーたちは仕掛けて来る。
それより砂漠から山を下れば、赤魔湖まで一気に進める。
ただ山頂から山羊の道といわれる岩場を歩かないといけないから、そこの片牙対策をよく検討した方がいいけどね」
ミカは答えた。
「ヒヨウは、片牙と会って助かったの?」
チェコの問いに、
「ああ。
片牙に近づくとな、臭いがある」
「臭いのか?」
タフタも、身を乗り出した。
「なめし革の塩漬けのような臭い、特に夏場のそれに近いな」
ゲー、とチェコは吐く真似をした。
「そりゃ酷いや」
「なめし革の塩漬け?
チェコは知ってるの?」
タッカーは少し驚いたようだ。
「普通はさ、ちゃんと作られた羊皮紙を使うんだけどさぁ、ダリア爺さんはケチだから、塩漬けの毛皮を樽で買うんだよ。
それを俺が石灰に入れて、皮を剥いで、枠に張って干すんだよ。
干したら軽石で擦って石膏を塗って、もー、大変なんだ。
特に、樽を開けたときの臭いと来たら!」
チェコの足元で、パトスもゲーと、同じ動作をしていた。
「まぁ臭いが判れば話は早い。
気づいたらすぐに頭から酒をかぶる。
服は酒を吸ってしまうから、脱いだ方がいい。
そして塩杉の塩を全身に揉み込み、皿に酒を張って、火を付ける。
塩を火にこべるとバチバチと爆ぜ、臭いにおいが消えるまで、ずっと踞っている、これが片牙を避ける方法だ。
ただし、絶対に片牙の姿を見たり、目を合わせてはいけない。
爆る火だけを見る、これが大切だ」
「そんなんで避けられるのか。
知らなかったな」
とタフタ。
「だが、この間、決して喋らぬ事、動かぬ事。
前に言った目を合わせない、と共に三つの禁忌を守らなければならない」




