エルフ酒
「砂漠に出るにしても、山頂から山羊の道へ向かって数キロはあるぜ。
その間は片牙に狙われるだろう」
タフタは、慎重に考えながら言った。
「まあな。
だが、それはどこへ向かっても同じこと。
また、片牙の事はピンキーたちも知っているのだろう。
そうそう自由には動けまい」
ヒヨウは語った。
「要は片牙に狙われるか、ピンキーに狙われるか、って事?
難しい選択ね」
ミカは唸った。
「でもさ…。
片牙って、出会ったら、殺される前に自殺しないと魂が喰われる、って奴でしょ?」
チェコが聞く。
「片牙を避ける方法は、幾つかある。
神酒、神火、塩杉の塩だ」
ヒヨウの言葉に、ミカは懐疑的に、
「よく、そういう話を聞くけど、本当なのかしら?
死んでからじゃ駄目でした、とか言えないじゃない?」
「俺は何度か、それで災厄を免れている」
ヒヨウは語った。
「で、あんのかい、その三つは?」
タフタが唸るように聞いた。
ヒヨウは立ち上がると、また別の隠し戸を開き、
「神酒と塩は常備している。
神火は、カウトゥンたちの事もあり、ここには持ち込めないので、外のエルフ小屋に、多分あるはずだ」
「神酒って、これでもいいの?」
チェコは、ミカから貰ったコニャックの瓶を取り出した。
ヒヨウは酒の匂いを嗅ぎ、
「充分だろう。
エルフ酒は、塩杉の樽につけて作った酒で、もっと匂いが強い。
どちらにしてもアルコールの強い香気が、片牙を寄せ付けないのだ」
タフタはすかさず、自分のコップを差し出した。
「ちょっと確かめさせてくれよ」
ヒヨウは薄く笑った。
「腰を抜かすぞ」
ドブンと指一本分、コップに注ぐ。
ちょっと苦いような、脂臭い匂いが、立ち上った。
「ひどい匂い」
ミカは言うが、ゴクリ、と飲んだタフタは、
「旨ぇな、やっぱり…」
と感心していた。




