隠し戸棚
「それ以前に、まずトレースをさせてもらえないだろうな」
ヒヨウは頷いた。
「あ、パトスなら話せるかも!」
チェコが叫んだ瞬間、パトスはチェコの尻に、思い切り噛みついた。
「お前、人を何だと思っている…。
危険なんてご免!」
「痛い、痛いよパトス!」
チェコは叫んだが、周りは笑った。
「ともかく、ここは黒龍山より遥かに高い天空で、タウトゥンの気に障ったりしたら一瞬で死ぬ。
まず、無事に世界樹から出ることを目指そう」
ヒヨウは語った。
タフタが、そう言ゃあ、と思い出した。
「ここに食べ物を隠している、とか言わなかったか?」
ヒヨウは頷く。
「エルフは、ここに貯蔵庫を持っている。
この先だ」
と通路を歩き出した。
ハァ、とタッカーは思い腰を上げ、
「なかなか、ゆっくり休む、って訳にはいかないねぇ…」
ヒヨウは、
「気の毒だが灰かぶり猫の事があるからな。無ければ、別に寝ている分には、タウトゥンは何も気にしない。
傷ついた旅人は、数日、体を休めれば樹液もあるし、しっかり体調を回復出来るんだがな」
タッカーは、自分で自分の首を絞めたらしい。
緩い坂をしばらく歩くと、ヒヨウは何もない通路の壁をパチンと押した。
すると壁板が外れ、中に戸棚が現れた。
樽や布袋、箱などがぎっしり入っていた。
「これがエルフの隠し棚だ。
味噌や干した肉、魚、木の実を砂糖で固めたもの、ドライフルーツ、それに干し飯だ」
「干し飯?」
チェコは、聞きなれない言葉に首を傾げた。
「ああ。
これは、このままでも食べられるし、水で戻せば、ずっと旨い。
鍋に入れれば粥にもなる」
袋の中に手を入れた。
生米よりも一回り大きな粒が、ざらっ、と手で掬えた。




