奇襲
ネルロプァのトンネルは、ただ真っ直ぐに、微かに登りながら続いていた。
やがてトンネルは、真円に、お椀を伏せたような形に広がった広場に出た。
その中心には一本の柱が天井から伸びていて、微かに濡れている。
そして、床より一段高くなった柱の下側が、お皿のようになっていて、皿の底数センチほど水が溜まっていた。
「これがネルロプァの樹液だ。
飲めるし、とても体に良い水だが、溜まっている分しかないので、皆、水筒に一杯づつ汲んでくれ」
皆、荷を背負ったまま、忙しく水を汲んだ。
「今のところ、敵が襲ってくる気配は無いみたいだな」
タフタは斧を手にしたまま、周囲に気を配る。
「我々が隙を見せなければ、そうは奴らも気安く攻めてこないだろう。
こちらの方が人数も多いし、スペルランカーがいるのも判ってるはずだ。
特に、チェコは警戒してるだろう」
ヒヨウが言う。
「え、俺?」
チェコは驚く。
「そりゃそうよ。
あたしだって、まさかプルートゥを倒しちゃう、なんて思ってなかったわよ。
その前のときも、あのプルートゥをよく追い詰めていたわ。
奴ら、あんたを真っ先に狙って来るわよ」
「えー、どう狙うの」
チェコは聞くが、
「予測がつくなら、奇襲とは言わないのよ。
毒矢が飛んでくるかもしれないし、石が落ちてくる、とか、落とし穴とか、毒虫とか…、ありとあらゆる手段の可能性がある、その複数の組み合わせ、とかね」
ミカは声を潜めた。
「うーん、近くならパトスの鼻で、大概判ると思うけど…」
「今…、何もない…。
だが…、いくら俺でも…、矢の距離までは判らない…」
パトスが教えた。
「ネルロプァ内では小細工は出来ないと思うから、矢が一番危ないか、とは思うが。
しかし予測出来るようなことはしないのが灰かぶり猫だ。
気を抜くなよ」
ヒヨウも言う。
「嫌だなぁ…」
言いながらチェコは、グビッと水を飲んだ。
「わ、何これ!
凄い甘いよ!」
花のような微かな良い香りと共に、癖の無い甘さが、まるで果汁のように口に広がった。




