怪魚
「怪魚?」
チェコは一気に喰らいついた。
「なにそれ!」
「あー、伝説のようなものだ。
カヌーで釣りに出た二人の屈強な男が消え、カヌーだけが岸に辿り着いた、とか朝靄の中で、巨大な魚の影を見た、というような話が、よく聞かれるんだ。
しかし、俺もよく水浴びしたり、ピジョンを取ったりしているが、そんな恐ろしい物は見た事はない」
ヒヨウは言うが、ミカは、フッフッフッ、と恐ろしげに笑い、
「思うに、きっと夜行性なのよ。
夜、水を飲みに来た動物を食らう、途方もない怪物なんだわ」
と、恐ろしげに笑った。
「俺は、遠くからなら見たこと、あるぜ」
と、タフタ。
「湖面にな、すごい早さの一本波が、ザァ、と伸びていったんだ。
人間が船で出せるスピードじゃねぇ。
あれが赤禍池の怪魚なのか、と驚いたぜ」
ほぅ、とチェコの目が輝く。
「凄いなぁ、見てみたいなぁ!」
「近くで見たものは、皆、死んでいるのよ」
ホッホッホ、とミカは笑う。
「確かニフォークの、伝説の沼に、巨大な鯉がいたそうかな。
その大きさは、五人乗りのボートよりずっと大きかった、と本にあったかな」
五人乗りのボートより大きい、とチェコは考えた。
およそ、この階段の、一つの直線ぐらいの大きさだろうか?
そう考えると、怪魚の大きさは、この階段の三角柱の一辺よりも大きい、って事か…。
そんな魚、考えた事もなかった!
チェコは巨大魚を心に思い浮かべるが、ヒヨウは冷静な声をかける。
「もうすぐネルロプァの枝に入る。
ランタンの用意をしておいてくれ」
いつの間にか、ネルロプァの大枝が頭上に広がっていた。
あと十回ほど直線階段を上がれば、世界樹に届きそうだ。
階段は、その枝に掘り抜かれた穴に刺さって続いていた。
穴の中は暗く、闇が深く居座っていた。




