不意討ち
「なるほどな…」
ヒヨウは頷く。
「前から思っていたが、チェコとタッカーはスペル以外で身を守る術を身につけた方が良いようだな」
え、でもさー、とチェコは言い、
「そんなプロの殺し屋に、ちょっと練習したくらいで太刀打ちできるの?」
「お前たちは、いつでも戦えるスペルがあるのだから、初撃を防げさえすれば、後はスペルで戦える。
その防ぐ練習なら意味はあるだろう」
ふーん、とチェコは、まだカードを手に持ったまま空返事をしたが、そのチェコの鼻先に、空気をヒュンと切り裂き、金臭い剣が突きつけられた。
うわぁ、とチェコはカードを落としかけ、慌てて掴み直した。
ミカが、チェコの前に直立し、細身の短槍をチェコに突き付けていた。
「チェコ。
本当にヤバい奴らなのよ」
チェコは、引きつりながらも、
「ほら、俺にはパトスって頼もしい仲間もいるしさ…」
と、苦し紛れに言うが、チェコの立つネルロプァの根の下で寝ていたらしいパトスが、
「俺、仔犬…。
いつも助けてやってんだから、お前が俺を守れ…
アース出してやんないぞ…」
ええ、と慌てるチェコに、ミカは微かに微笑む。
わ…、判ったよ…、とチェコは慌ててスペルボックスにカードをしまった。
実際のところ黒龍山の頂上でガードは買えないので、穴が開くほど見ていても、デッキは変えようもない。
ただ、ガードの並び替えはスペルランカーなら日常的に行うのが当たり前だったが。
必ずしもカードは並んだ順に発動する訳ではないが、円滑に自分の思う事をするために、動きの順番を常に考えるのは大切だった。
そして己のデッキの出し順と共に、スペルボックスに仕切られた後ろの部分には、敵に対応するカードを入れる。
雷だとか、スペル無効化とかは、ここに何枚か束にして入れておく。
一回の戦闘で使えるのは、カードの枚数分のみだから、数を把握するのも大切だ。
スペルボックスの一番後ろには、奥の手、が入っていた。
チェコのボックスに入っているのは呪われた石像と冥獣アドリヌスだ。
チェコは、短剣の柄に手をかけて立ち上がった。
「不意を突かれたときの練習なのよ、
手は柄から放しなさい」
厳しい声でミカは言った。
チェコが手を落とすと、ミカは短槍を太ももの鞘にしまい、見て、と囁いた。
一瞬で、ミカは槍を抜く。
瞬間、ミカは微かに身を屈めると、右手は自分の太ももを滑るように柄の端を指に引っかけ、槍を引くと同時に、左手を押さえていた。
「こう出来るようになりなさい」




