故郷
「あれ、りぃんは、体が無いよね?」
「りぃんは、別に冥府から拒絶されてはいない。
鬼の古井戸に行けば、無事に迎えられるだろう。
彼はただ、兄を待っているだけだからだ。
ただし、長く山に居続けたことで不思議な力を身に付けつつある。
もし、このまま自ら冥府を拒否し続ければ、やがて今とは違う何かになってしまうかもしれない」
ヒヨウは言った。
りぃん、とチェコは言うが、チェコが首から下げたエメラルドのネックレスが語った。
「僕ハ、オ兄チャンヲ待ツ。
僕ラハ世界デ二人キリダッタカラ…」
ミカは目を見開いた。
「え…、チェコ、それ新しい魔石なの?」
アハハ、とチェコは笑い、りぃんとの経緯を語った。
「ふーん、この山に、そんな兄弟がいたんだ。
でも、りぃん君。
このまま人の魂が、この世にあり続けたら、ボロボロになって死んでしまうのよ。
よく幽霊とか言うけど、その大半は、そうやって魂の死を迎え、霊体という魂の骨、みたいなものだけが意味もなくさ迷う事になるの。
それが俗に言う怨霊や幽霊の正体なのよ」
へえ、とチェコは感心し、
「ミカさん、詳しいんだね」
ミカは、はにかんで笑い、
「あたしは師匠に祓いを教わりながら旅を続けていたの。
でも師匠は旅の途中で死んでしまい、途方にくれていたあたしを、プルートゥが引き取った、って訳」
「確かウェンウェイが言っていたな。
北の国に祓い師の里があるとか…」
ヒヨウは思い出す。
「そう、北の果ての国トウニカのユルトゥークの里、それが師匠や全ての祓い師の故郷なのよ。
でも、あたしは師匠に拾われた、どこかの町の孤児だから、別にユルトゥークなんて、どこにあるのかさえ知らないの。
なんでも、大地さえ凍りつく永久凍土の土地、って師匠に聞きはしたけど…」
ミカは空を見上げた。
「あたしには、帰る場所なんて、何も無いのよ。
ずっと旅をしていたし、きっとこれからも…」




