皆殺し
チェコは、数メートルを、どさり、と落ちた。
山では、多少の滑落等は、あまり気にしないことも多いが、チェコの落ち方は危なかった。
すっかり脱力したまま、泥袋のように石の上に落ちたのだ。
「チェコ!」
タッカーが、ヒヨウが、飛行を使って降りてくる。
タッカーが先にチェコに走り寄ったが、ヒヨウが、動かすな! と叫んだ。
頭を打っている場合、些細な振動も重篤な影響を受ける場合もある。
そのままの形で回復スペルを使うべき所だ。
だが…。
ズン、と巨大な足音が響き渡った。
「…ゴ、…ゴ…ロタ…」
タッカーは、間近で見た熊の、あまりの巨大さに声を震わせた。
ゴロタは、まさに山、そのもののように巨大だった。
「この子供は、俺が助ける…」
ゴロタは語った。
「俺が、助けられたのだからな…」
言うとゴロタは、その巨大な舌で、ペロリ、とチェコを舐めた。
チェコの皮膚が、ふわり、と白く発光した。
「おお…、聖なる光りだ…」
ヒヨウは、片膝を立てて屈んだ。
ゴロタは、チェコを優しく舐めるが、鋭い一瞥を、前で潰れた肉塊に向けた。
プラズム体が白く光り、元プルートゥの体を包み込んだ。
その、籠程の大きさの光のドームの中に、どす黒い死の雲が満ちていく。
「永遠に回復し続けるがいい…、外道め…」
呟くと、ゴロタは白く光るチェコの体を優しく咥え、ごろり、と横たわった。
その頃…。
赤竜山の頂上では、二人の男が、遥か遠く黒龍山を単眼の望遠鏡で眺めていた。
「死にやがったな、あの外道は…」
まだ少年と言えるほどに若いが、見事な筋肉の浮き上がった男は、アスリートのような、体に密着したブルーのウェアを着て、言った。
シシシ…、と笑うのは白髪の男だ。
顔は相応にシワ深かったが、肉体は頑強そうだった。
キモノと呼ばれる東の国の衣装を着、細長い独特のソードを手にしていた。
「散々デカイ事、言ってなぁ…。
どうする、お嬢?」
二人の男の後ろには、ミニスカートから見事な美脚を艶やかに組んだタンクトップ姿の美少女が、ピンクの長い髪の毛を靡かせて、ニタリ、とピンクの唇で笑った。
「当然…、皆殺しだ…」




