魔力
チェコの周りに、ぽつん、ぽつん、と黒い星のようなものが浮かび上がってくる。
「あれ?
な…、何だ…」
タッカーが声を上げる。
「不味いぞ。
あれは多分、ゴロタが集めた死霊たちの魂だろう。
あれまでが集まるとすると…」
「死霊って、さっきまで空を真っ黒に埋めていた奴か?
何百、いや何千と、あっただろう!」
タフタが叫んだ。
「そうなったら、もう召喚獣の力じゃ無いわね…」
キャサリーンが冷静な声で呟いた。
既に、冥獣アドリヌスは、チェコの体よりも大きく膨れ上がっていだが…。
チェコの周囲を埋め尽くす黒い星も取り込みながら、秒単位でアドリヌスは、どんどんと真っ黒な体を育たせていく…。
「ありゃあ…。
もうゴロタ位あるんじゃないか?」
タフタは唖然と呟いた。
「鬼の古井戸は、全ての魂の集まる場所なんだ。
ここでは、アドリヌスは無限に増える。
そして、あの召喚獣の体積が一定以上に育ってしまったら、逆に鬼の古井戸から冥府を吸い上げるかもしれない…」
ヒヨウの声が、震えていた。
「え、そんな、まさか?」
タッカーが否定するがヒヨウは。
「真空のホースで水を汲むようなものだ。
もし、ではあるが、井戸が逆流したりすれば、それこそ、この世はすべからく冥府に飲み込まれてしまう…」
ガタン、と階段でウェンウェイが倒れた。
「どうした、爺さん!」
驚いてタフタが近寄る。
「早く、俺を五百一段目の階段の最上部まで連れていくかな!
もう、それしか止める手立ては無いかな!」
タフタは、チラッとヒヨウを見るが、さすがの頼れるエルフも、もう打つ手を持っていない。
「そー言ったって、ここが何段かなんて、数えちゃあいないぜ、俺ァ…」
「ここは四八三段目かな!
あと一八段かな!」
タフタは、しゃあねぇな、と言って軽々とウェンウェイを担ぎ上げた。
チェコの前で、それは、山からはみ出すほどの巨大な暗黒に育っていく。
プルートゥは、ようやくバブルから逃れ、いつの間にか戻っていたアースで飛行したが…。
チェコはほとんど失神、と、いっていい状態だった。
半眼に見開かれた瞼の内側は白目になり、半開きの口から、力なく舌が垂れ下がっていた。
召喚とは、己の魔力で異空間の獣を、現実世界に呼び出す術だ。
当然、力が魔力と釣り合っていれば何の問題も無いのだが…。
あれだけの化け物では、程なく小僧の命まで絞り出されてしまうだろう。
ちら、とゴロタを見るが、精獣は白い再生の繭に包まれていた。




