虹カマスの湖
ミツバチの茂みを出ると、様々な花が一面に咲き乱れる、なだらかな下りの傾斜地だった。
はるか下には、美しい緑と青のグラデーションの湖水を持つ虹カマスの湖が広がっていた。
鏡のような湖面には、肉厚な雲と、まだ雪を湛える黒龍山と赤竜山が陽光に輝き、驚くほどの絶景が広がっている。
その、この世ならぬような光あふれる景色の中、チェコとパトスは一目散に煌めく湖面まで駆け下りていく。
「ちょっと待ちなさいよぅ!
何で、せっかく今まで登って来たのに、急に降りてくのよぅ!」
チェコは、必死に走りながら。
「だって虹カマスを釣らないと!」
叫びながらも、脇目も振らずに走り続ける。
「ちょっと!」
キャサリーンは、喘ぐが…。
「先…見る…」
パトスが、キャサリーンの横に戻って来て、言った。
「先…、進むのには…虹カマス、必要…」
言われてみると、広々とした傾斜地の先には、別の山のように森深い急傾斜な丘が、湖面に突き出て道を塞いでいた。
「ええっー。
虹カマスって、食べるんじゃなくて?」
「蛇女の淵…、ついたら食べる…」
「あの山には登れないのぅ?」
「あれはゴロタの森。
素人が入れる場所、違う…」
二人が会話をしている内に、湖面に辿り着いたチェコは、リュックを放り出すと、釣竿を水に投げ始めていた。




