膨張
チェコがバリアーを出ると同時に、ゴロタは黒い気体を口から吐き始めた。
「チェコ!
早く上がって来い!」
とタッカーが、ネルロプァの樹に作られたエルフの階段から身を乗り出して、叫んでいた。
自分の体も辛いだろうに、あんなに心配してくれるタッカーに手を振りつつ…。
「ねぇ、パトス…。
バリアーの内側で死の雲を出して、ゴロタは大丈夫なのかな?」
チェコは呟いた。
「…自分で負けるようなこと…、ゴロタがする訳、無い…」
パトスは言う。
ちさも、
「、、ゴロタは山の神様と交信しているの、、心配無いわ、、」
そうだよね…、とチェコは笑った。
だが、バリアーに、まだ刺さったままのプルートゥが、ニィと笑った。
「ククク…。
本当に、獣って奴ぁ、ワンパターンで笑っちまうよなぁ…。
俺の片腕だけを死の雲で痛めたところで、すぐ回復しちまうのになぁ…」
「…チェコ…、気にしないで、皆のところに帰る…」
パトスがチェコの服に飛び込んで、言った。
偶然か、わざとか、チェコの裸の腹を、足の爪で引っ掻いた。
「でも…、なんか…」
とても、嫌な予感がしていた…。
「…馬鹿、チェコ…、バリアーを解いてプルートゥの全身を死の雲で攻めるのに、お前がいちゃ…、邪魔…」
パトスに叱られ、チェコは、ああ、そうだよね…、と、既に発動していたスペル飛行で空に舞い上がったが…。
チェコの背後で、激しい轟音が響き渡った。
え、とチェコが振り向くと。
チェコが今まで立っていた地面が、真っ黒く焼けていた。
焦げた岩肌のあちこちで、ネルロプァの根にチロチロと火が燃えている。
巨人の腕のような黒煙が立ち上ぼり、そして、その奥でゴロタは、横転し、腹を見せて倒れていた。
「ゴロタァー!」
チェコは叫ぶが、上空ではプルートゥが、腹を抱えて笑っていた。
「獣は本当に間抜けだからなぁ!
せっかく小僧が俺のアースを止めてくれてるのに、ワンパターンに死の雲なんか出しやがって。
密閉空間に気体を充満させた場合、その空間の温度を急激に上昇させてやりゃあ。
それがどんな物質であれ、膨張爆発を起こし、その瞬間に酸素と結合すればな。
爆発火災が起こるんだよ」
言うとプルートゥは、山々に響き渡るような声で、高笑いに笑った。




