大きくなっちゃった
「あそこまで行ければ安全なの?」
チェコの言葉に頷きながら、ヒヨウはタッカーに馬乗りになった。
タッカーの背中に塩杉の棒が当たり、タッカーは悲鳴を上げた。
「あそこまで行ければもう、幹を折られる心配もない」
自分の全体重をかけるように、ヒヨウは棒を差し、タッカーは絶叫する。
やがて…。
まあ、こんなものか…、とヒヨウは言い、
「チェコ。
回復を使ってくれ」
チェコがスペルを使うと、ううっ、と肩を震わせて泣いていたタッカーも、はぁ、と気持ちよさげに溜め息をついた。
「うわぁ、凄い跡…」
ちょっと毛布をめくってみると、タッカーの背中は、黒ずんだ跡が二列に、整然と並んでいた。
「だが疲れはとれたはずだ…。
どうだ、タッカー?」
タッカーは、真っ赤な目のまま、恐る恐る身を起こす。
腕や足を動かし…。
「うん。歩けそうだ」
と、何かにバカされたように、キョトンと語った。
「凄けぇな、エルフタッチは。
こりゃ、流行る訳だ」
タフタは感嘆した。
「エルフは今の知識より、ずっと古代の叡知を今に伝えているのだ。
その一つがエルフタッチだ。
他にも薬草学や食べ会わせなど、平地の人間が忘れた知識を、エルフは今も伝えている」
タッカーはよろよろ立ち上がり、脱ぎ捨てた服を着始めた。
「大丈夫?」
チェコが聞くとタッカーは頷く。
「ああ。
凄く痛かったけど、今はなんだか、体が軽いみたいだよ」
言いながら腕を振る。
「まぁ、いくらエルフタッチだって限界はあるんだから、ゆっくり歩いて登りましょ。
まだ太陽は、そんなに高くないわ」
キャサリーンは、タッカーの肩を撫でて言った。
「うわぁ!」
チェコが叫んだ。
「死霊が、大きくなっちゃった!」




