神を欺く
チェコたちは、言葉を失っていた。
この超人的な傭兵は、ついに神を欺き果たしたのだ。
「さあ、商売の話をしようじゃないか。
前から言っているように、俺は無意味に殺人を好んでいるわけではない。
だがな…。
妖精を渡せ。
さもないと…」
プルートゥは、ニタリ、と笑う。
「皆殺しだ」
口角を上げ、白い歯を見せてはいるが、目は殺気に満ちていた。
「駄目よ」
だがキャサリーンは決然と言った。
プルートゥの眼が、異様に光る。
「駄目よ、今のままじゃあ。
見なさい!」
キャサリーンは背後を振り返った。
ゴロタが、自分の足の下に何もないことに気が付いていた。
召喚獣は、戦いを終えればカードに戻ってしまうのだ。
ゴロタの憤懣のこもった雄叫びが、山に響き渡っていた。
「このままじゃあ、例えあんたがあたしたちを殺さないとしても、怒り狂ったゴロタにこの木が折られてしまったら、どの道あたしたちはあの世行よ。
ハナが欲しいのなら、あの獣をきっちり始末して見せなさい。
そうでなければ商談は成立しないわ」
プルートゥはギラつく目で、キャサリーンを睨んでいた。
が、
「まぁ、そっちの言い分は理解する。
では、あの獣を始末することにしよう…」
言葉を空間に漂わせたまま、プルートゥは影のように消えた。
チェコは、慌ててゴロタを振り返った。
ゴロタは、宙を睨んでいた。
その視線の先に、いつの間にかプルートゥは浮かんでいた。
「あの野郎、どうするつもりだ…」
タフタは言うが、すぐに口をつぐんだ。
ゴロタの頭上に十メートル以上はあるような、巨大な金属が現れたのだ。
その形状は、船の碇によく似ていた。
「…なんだ、ありゃあ…」
タフタは、呆然と言った。
「あれ、たぶん剣だよ…」
と、チェコが言う。
「そうね」
と、キャサリーン。
「あれは、下に落とす用に計算して鋳造された、馬鹿でかい剣、もしくは、ギロチン、といったものの様ね…」
剣、もしくはギロチン、は漆黒の金属でできていた。
黒い表面は艶がほとんどなく、午前中の強烈な太陽光線を吸い取るように、鈍く光を受けていた。
大自然の塊である黒龍山の頂に、ジョークのような巨大な刃は、圧倒的な存在感で浮かび上がっていた。
仕事の都合で、たぶん18日頃まで連載更新できません。
申し訳ありません。
次回は、18日に連載します、たぶん…。




