憧れ
着地したプルートゥは、チャンスとばかり走った。
接近すれば、プルートゥにはゴロタの前肢を倒したパワーもあれば、頭やプラズム体を吹き飛ばすスペルも爆薬もある。
だが…。
ゴロタが、駒のように回転した。
後ろ足が、プルートゥの全力疾走していた体を、横殴りに蹴った。
プルートゥは、山裾を転がり落ちた。
「おおっ!」
とチェコたちは興奮して叫ぶが、キャサリーンは、
「飛ぶわよ。
さっきも飛んだでしょ」
と冷静に言った。
キャサリーンの言葉通り、プルートゥはスペル飛行で空中を上昇してきた。
ゴロタも、それは判っていたように、プラズム体の二匹の蛇が、マグマ弾を連打で撃ち出す。
「あれは、プルートゥには効かないんじゃなかった?」
チェコは呟くが、
「マグマは、溶けた岩石なのだ。
あの速度でぶち当たれば、石の破壊力と熱の爆発力が同時に加わる。
無傷というのは、有り得ない」
ヒヨウも、やや興奮して言った。
プルートゥは、大きく空中で弧を描くと、手で背中のマントを広げた。
ひらっ、
ひらっ、
マントは風を捉えると、プルートゥの体を蝶のように踊らせた。
プルートゥは、空中で小刻みに揺れ始めた。
巧みにマントを操り、四方から飛んで来るマグマを器用に交わしていく。
「凄い!」
チェコは思わず呟いてしまった。
敵ながら、戦闘の発想が、チェコの理解の、遥かに外側にプルートゥは達していた。
マント一つで、あんな飛び方が出来るなんて!
プルートゥは、もちろん八十近いアースを出せる怪物だが、それ以前の技術においても達人級の戦闘者だ。
意表を突く攻撃、そして逆に、相手が凄い攻撃を繰り出したとしても、プルートゥは平然と、それを受け流してしまうテクニックがあった。
もちろん、それは長い軍人としての歳月の中でしか磨かれないものなのだろうが、数日前までリコの村で、微睡むような子供の時を過ごしていたチェコには、敵としての憎しみたけではない、羨望と憧れを、傭兵であるプルートゥに懐き始めていた。




