怪物
「え、タッカー兄ちゃん、登ってみたくないの?
世界樹に登れるなんて、もう一生無いかもよ!」
目を輝かせてチェコが返すと、
「正直、今すぐにでも寝たい気分だよ」
タッカーは眠そうに笑った。
確かに、螺旋の穴の途中には、寝るためらしい凹みが、幾つも作られていた。
状況次第では夜営も可能なように見えた。
「その選択肢は残念ながら無いぞ、タッカー。
なに、上に行ったら寝られるさ」
ヒヨウは笑った。
螺旋状の穴は随分続き、やっと薄く外の光が入るようになって来ると…。
まるで待っていたかのように、世界樹が激しく揺れた。
遅れて、鼓膜が痛むほどの爆発音が迸った。
チェコは思わず走り出し、ネルロプァにエルフが穿った穴を出た。
そこは、無作為に巨木を束ねたように凹凸が続く場所だった。
その一本の木の広さだけでも、おそらくガラクタ置き場まで含めたダリア爺さんの家よりも広い。
チェコは自分より背の高い木によじ登り、飛び降りて、山頂の見える場所まで駆け抜けた。
朝とは言えぬ頃というのに、空が暗い。
山のあちこちから、黒煙が立ち登っているのだ。
その黒煙の中心に、巨大な獣がいた。
「あ…、あれがゴロタ…?」
それは伝説に聞くドラゴンかと思うような、巨大な熊だった。
いや…、熊、なのだろうか?
体長、おそらく十メートルから十五メートル、
体毛は黒、な、はずだが、苔なのか何なのか、緑、の部分も背中を中心に多い。
その背に、まるで天使の翼のように、緋色の、体よりも大きな、輝く光の柱のようなものが二つ、伸びており、まるで二匹の蛇のように別々にうねくっていた。
その熊の足元に、小さな影が見えた。
プルートゥだ。
プルートゥは、おそらく高速移動のスペルを己に使って、目にも止まらぬ早さで移動を繰り返している。
二本の光る赤い蛇は、プルートゥを追って動いており、時折口を開くと、
ごっ…、
と真っ赤な、まるでマグマのような物を撃ち出していた。
それが地面に突き刺さると。
山、そのものが、苦しみにのたうつように、歪み、爆発と共に、物凄い鳴動が巻き起こる。
うわぁ!
チェコは叫んでいた。
あんな怪物、見た事も無い!




