爆音
チェコたちは、根の上を走った。
とはいえ、それは容易な事では無かった。
根は、太いとはいえ平坦ではないし、無数に別れて四方に広がっている。
跳び、走り、蹴躓き、皆でフォローしながら必死に走り、やがて城塞のような世界樹の根が見えてきた。
大きい!
チェコは心を弾ませた。
世界樹ネルロプァの幹の根元は、化け物のような巨大な根が黒龍山の岩をガッチリ掴み、山頂に建つ城のように、その尾根の先端に漆黒の偉容を現していた。
その黒い城の周り三六十度から、今や直径は数十メートルはあるような根が、ゴツゴツと無数に山を穿っていた。
そして、その上を、蟻のように一列に並んで、チェコたちはせっせと走り続けていく。
どぁう…。
爆音が響き渡った。
何が起こっているのか見てみたいが、今、速度を緩める訳にはいかない。
ごぅ…、と山が揺れたのは、ゴロタの雄叫びなのではないか、とチェコは想像した。
だが雲上の戦いから、アリは必死で逃れるだけだ。
爆発音が連続して巻き起こる。
「うわぁ、戦い出しちゃったよ!」
タッカーは悲鳴を上げた。
「プルートゥは、高山でのスペルの制約を受けている。
だが、ゴロタは自由に放電も火も使える。
早く世界樹に登らないと、俺たちも丸焼けだ!」
丸焼け、というヒヨウの言葉が、妙に生々しかった。
チェコの頭上を、一瞬の閃光が走った。
稲妻のようだ。
「ひゃあ!」
タッカーが叫ぶ。
爆発、雄叫び、振動、そして、岩の焼ける、噎せるような臭い。
それら全てを浴びながら、チェコたちは走った。
「よし、もうすぐだぞ!」
チェコたちは、巨大な根太に接近していく。
真っ黒い、根太だ。
その百メートルは太さがあるだろう木の根の元に、小さな穴が空いていた。
アリの巣穴のような、その穴の中へ、チェコたちは爆音に追われて飛び込んで行った。




