来た
皆、必死だった。
タッカーも、もう口を開かない。
とにかく世界樹ネルロプァに辿り着かないと、すぐにゴロタとプルートゥの戦いが始まってしまう。
それは、今まで考えていたよりも、ずっと激しい戦いになりそうだ、とは全員が判っていた。
壁のような根に、なんとかよじ登り、二股の根を跳んで渡り、ふと見上げると、ネルロプァの幹が、だいぶハッキリと見えるようになってきていた。
それは尾根とほぼ同等の大きさを持つ、巨大な木の切り株のようだった。
首塚のように見えていたのは、どうやら無数の、切れた幹であるようだ。
空に伸びていく一本の他に、二、三十本の、途中で切れた幹が、まるで塔のように、また墓標のように、黒々と空の青に向かって、むなしく伸びていたのだ。
いや、切り株自体が、無数の幹の集合体の様にも見えていた。
「あれ…、折れちゃったの?」
チェコは思わず聞いた。
「そうだ。
実は、四里の吊り橋は、人工的に俺たちエルフが作ったものなのだ。
これは、地上の人間が思うよりもずっと、重要な事であり、今の、この幹も、折れれば又、新しい幹を引いてくる事になる。
ゴロタはそんな事、気にも留めないだろうからな」
ヒヨウは足を止めてチェコに話し、全員が同じ根に集まると、
「ここから先は、根の上を走る。
本来は責められるべき行為だが、今はもう…」
その時、山が震えた。
雷鳴よりもなお激しく、それは山そのものが吠えているような、地面から伝わるとどろきだった。
「来たか…」
ヒヨウが呟く。
「来たのか?」
タフタもまた、少し青ざめていた。
「根の上を走るぞ。
ここにいては、巻き添えを食ってしまう!」
ヒヨウは叫び、走り出した。
チェコ以外の人間は、まだロープで繋がれたままだ。
半ば引きずられるように、全員はネルロプァの入り組んだ根の上を走った。
どう…。
背後で、巨大な音がしていたが、それがゴロタの足音なのか、プルートゥのスペルなのか、誰も見返すことは出来なかった。




