根
緩やかに下る尾根を進むと、最初の、世界樹ネルロプァの根が、チェコたちの行く手を塞いだ。
根の一本だというのに、チェコが手を伸ばしても届かないほど、高く、太い。
炭のように黒い樹皮に、ちょこ、ちょこ、と小さな緑が見えていた。
「ん、…苔?」
チェコが目を近づけると、それは爪の厚さと同じほどの、ささやかな葉のようにも見える。
「それがネルロプァの葉であり、生きている証だ。
我々は葉を傷つけないよう、こっちで…」
根に沿って横にずれると、大きな石が、根の間近に置かれていた。
ヒヨウは石に登って、ひょい、と巨大な根に上がった。
チェコも真似をして根に登り、向かい側にも設えた石に跳んで、尾根に戻った。
見上げると、よろよろとタッカーが根の上に上がった。
瞬間、この世のものとは思えないような雄叫びが響き渡った。
何百という豹やジャガーたちの咆哮が、一斉に重なり、化け物の絶叫のように空気を揺らしたのだ。
ひっ、とタッカーは根の上でバランスを崩した。
或いは、この音には、それだけの音圧があったのかもしれない。
尾根筋は広くは見えるが、転がれば何百メートル転落するか判らない断崖の天辺だ。
「タッカー兄ちゃん!」
チェコは叫んだが、前の踏み石にいたウェンウェイが、手を伸ばしてタッカーを支えた。
「あ、ありがとうございます…」
タッカーは、小さく震えた。
ウェンウェイはハハと笑い、
「ゴロタは、こんなもんじゃ済まないから、用心するかな」
「え、ウェンウェイさん、ゴロタを見たことがあるの?」
ウェンウェイが住んでいたのは、ずっと上の高山だが、長く山に住んでいるのだ、その可能性はあった。
「姿を見たことは、幸いにも、無いかな。
だけど何度か、その叫びを聴いたかな。
あれは、聴くだけで背筋が凍るような、恐ろしい声かな」
凄ッゲー、とチェコは興奮するが、タッカーは呟く。
「でも、それでもゴロタがプルートゥを倒せるとは、僕には思えないんだ…。
あのアースの量を見ただろ?
あれじゃあ、使えないスペルなんて存在しないよ…。
実際、不死身なんだし…」
それはどうかな、とヒヨウは言う。
「この高山では、殆どのスペルは使用できないか、間違った発動をしてしまう。
回復スペルは体の中で発動するので使えるものの、大半のカードは意味をなさない。
そんな状態のスペルランカーに遅れをとるほど、ゴロタは甘くない」
チェコも、プルートゥとゴロタ、どちらが強いのか、思いを巡らせた。




