四里の吊り橋
尾根道は、山頂から緩やかに下って行き、その遥か四里の先には、赤竜山も、深い青い影として望洋と見えていた。
その手前、尾根の先には得体の知れない、どす黒い物体があるのがチェコにも見えてきた。
「ん、何かな…、また首塚?」
「いや、チェコ、あれが俺たちが目指していた四里の吊り橋だ」
「ええっ。
あれが?」
チェコが言うのも無理は無かった。
それは、およそ吊り橋らしい形態を持っていなかった。
黒龍山の岩骨にガッチリと喰らいついた野太い根が、幾重にも山脈の尾根に走り、食い込んでいる。
幹は捻くれ、大きく捩れながら、真っ黒な樹体は遥か上空へ消えて行っている。
「そ…、空に消えてるよ…」
「チェコ、あれは世界に六本あると言う世界樹の一つ、ネルロファ、四里の吊り橋の本当の名前だ」
「世界樹!」
それは、神の国にまで届くという神秘の大樹だった。
「えっ、でも真っ黒だよ。
枯れてるんじゃ…」
世界を支える神聖な木が枯れる訳は無かった。
「近くで見れば判る。
あれで枯れてはいないのだ。
これから俺たちは、世界樹に登る事になる」
ええっ! とチェコの後方で、タッカーが喚いた。
「ま、まだ登るの!」
昨日の段階で足をつっていたタッカーには、確かに酷だった。
「まぁまぁ、歩けなけりゃあ、俺がおぶってやるかな」
ウェンウェイの言葉に、全員が笑ったとき。
どぅ、と尾根が揺らいだ。
皆が一斉に振り返ると、黒龍山の頂上に、プルートゥが立っていた。額や手足に鮮血がこびりついているが、どうも自分の血では無いらしい。
「いょう、待たせたな」
とプルートゥは、白い歯を光らせ、笑った。
ヒヨウは歩き続けていく。
「気に止めるな。
奴の相手は俺たちじゃない」
へ? と驚くチェコのすぐ脇から、ごろごろと不機嫌そうに喉を鳴らした黒豹の群れが、プルートゥに向かっていた。
黒豹に続き、ジャガーや、山猫までが尾根の左右から次々と登り、尾根を埋めつくしてしまった。
ハハ、とプルートゥは爽やかに笑う。
「まだ遊んでくれるのかい?
嬉しいねぇ」




