不死身
怪物と言うものがあるのならば、それは今のプルートゥの事だろう。
顔の半分は潰れ、眼球は飛び出して、巨大な体は、くの字に曲がって、ねじくれた姿で、しかし、荒く息をしていた。
軍帽と軍服、黒いマントは着けたままだが、そうして斜めに立っている間にも出血が服を黒く染めて行く。
「あ…、あんた、背骨が折れてるんじゃあ…」
チェコが、干からびた声で言うと、
「おお、そうか。
どうも真っ直ぐに立てないと思った」
おおらかに言い、のんびりとスペルを発動させた。
「骨接ぎ」
ごき、ごき、と気味の悪い音を立てながら、プルートゥの体は、ぐにゃり、ぐにゃりと軟体動物のように左右に蠢き、血液を跳ね飛び散らかしながら、やがて、すっ、と直立した。
その血だらけの体を、確かめるように見回して。
「ふむ。
後は内臓と血液か…」
言いながら、アースを浮かべた。
ひぃ、と、そのアースの量を見て、チェコとタッカーは、同時に悲鳴を上げた。
プルートゥの体の回りに、赤いアースが五十以上も、鬼火のように浮いているのだ。
「スペル、心臓修復、肝臓修復、内臓修復、肉体縫合…。
そして、スペル血液回収」
崖の下から、板岩の上でも、奇妙な生き物のように、ドロドロとプルートゥの血液が、体に集まってくる。
なんと服や帽子を濡らした血液まで、一滴残らず、プルートゥの鼻や耳に滑り込んでいく。
そんな血みどろのまま、プルートゥは顔を触り、顎を大きく動かして、
「いかんな、歯を三本、どこかに落としてしまった…」
呟くと。
「スペル、歯、回収」
すると谷底から、なついた白い小鳥のように、歯が三本、弧を描いて飛んで来ると、プルートゥの口の中に、チェコたちの見守る中、収まった。
白い歯を光らせて、プルートゥはニヤリ、と笑った。
「オーケィ?
俺の不死身の秘密を教えてやろう。
それはな、肉体の死が魂の死ではないと、完璧に理解する事なんだ。
そして適切に治療スペルを発動できれば…。
千二百のスペルカードと、七八のアースがあればな。
人は死なない。
ハハッ、不死身と言う訳さ」
アハハハハ、とプルートゥの笑い声が、広大な二ッ角山脈の山々に、こだましていた。




