スペルランカー
仲間たちの横を歩かなければならないので、当然、板岩の隅を歩く事になる。
足の横は、数百メートル深く落ち込み、岩だらけの岩礁地帯が緑の森まで数キロぐらい、続いているように見えた。
岩は、上から見えている限りは、この板岩と同じもののようだ。
青ざめたタッカーの横を歩いた。
「チェコ…」
タッカーは、微かに呟き、チェコに何か手渡す。
スペル無効化のカードだ。
「タッカー兄ちゃん…」
タッカーは、視線は前を向いたまま、微かに頷いた。
チェコは箱に隠して、二枚のカードを見ていた。
そのチェコに、ふとウェンウェイがぶつかる。
チェコの手に、新たなカードが入ってきた。
青のカード、飛行、だった。
青は水を意味し、魚や人魚が多いのだが、時に飛行系のスペルや召喚獣もある。
飛行は、デュエルで使えば、青が弱い、空からの攻撃を迎え撃つために召喚獣に一時的に飛行能力を付加するカードだが、現実で使えば、確か一定時間、空が飛べるはずだ。
チェコは箱に隠したまま、三枚のカードをジッと見つめた。
皆、前しか見ていないから、相談して決めたことではない。
ただ、この三枚だと、ある種の動きが出来そうな気もする…。
自分分の空間を抜けて、ヒヨウの横に、チェコは歩いた。
「チェコ…」
ヒヨウは、全く口を動かさずに、囁いて見せた。
「山の頂上では、たった一アースのスペルであっても、思うようには動かない。
よく考えて行動しろよ…」
全く、皆、話していないし、目も合わせていないというのに!
それでも皆は、統一した意思を持っていた。
こういうのが、大人、なのかもしれない…、とチェコは思った。
だから…。
チェコは考える。
俺も、大人の行動を…、みんなと同じに考えられるように、ならなくっちゃいけないんだ…。
チェコは、生唾を飲んだ。
板岩は、プルートゥまで、およそ五十メートル。
プルートゥは、いつでも雷が打てるように、手を前に出している。
チェコは、ゆっくりと足を踏み出した。
どうするか…。
足を、敢えて岩の端に置く。
ミシリ、とブーツの下で、板岩が微かな悲鳴を上げた。
ん、とチェコは歯を噛みしめた。
それは一瞬だった。
チェコは、とてつもない、広く青い大空の中に、飛び出していた。




