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草の中
ギィィィ!
何かが唸りながら、キャサリーンの耳のすぐ横を、飛び去って行った。
ぎゃあ! と叫んで、キャサリーンは草の上に倒れた。
「どうしたの?
キャサリーンねぇちゃん?」
草を掻き分けて、チェコが顔を出した。
キャサリーンが訳を話すと、チェコがゲラゲラ笑った。
「そりゃあツブテ虫だよ。
あたると、ちょっと痛いけど、全然、害はないよ。
それより、ここで怖いのは蛇さ。
さっき言ったみたいに、木の枝で、草を叩きながら進むんだ」
黒龍山に入ってすぐは森林だったが、数分歩くと草原が現れた。
チェコの背丈ほどの草原が、見渡す限り続いている。
「もぅ…、どこまで続くのよぅ」
キャサリーンは美しい赤毛を草だらけにして、泣き声をあげた。
チェコは指を差して、
「あの岡を越えたあたりがゴロタの森なんだけど、そこは素人が入れる場所じゃないから、岡を迂回して、その先にあるミツバチの茂みを抜けるんだ。
そこを突っ切ったら、虹かますの湖で…」
さっきもチェコの説明は受けたのだが、どんどん聞きなれない名詞が出てくるので、さすがに覚えきれない…。




