雲
一本の石の道が、青空になだらかに続いていて、その先にはこんもりと巨大な先端の丸い岩がそそりたっている。
「え…、あれが黒龍山の…」
「そうだ」
とヒヨウは笑った。
「あの岩こそが黒龍山の骨なんだ。
下界では、その身に森をまとい、岩を乗せ、川を装い、様々な姿に変容しているが、その中心は、一つの巨大な岩で、それこそが黒龍山なのだ」
空は、明るすぎて、少し黒く見えてしまうほどに青が深く、その藍色と言っても良い青の中に、朝の陽を浴びて輝く、白灰色のとてつもなく巨大な岩がある。
これが、全ての黒龍山の元である途方もない大きさの石であると言う。
チェコは、その大きさに息を飲んだ。
「すぐ近くのように見えるだろうが、後一時間は歩くぞ。
慌てず、崩れやすい端に注意して進んでくれ」
ヒヨウの言葉も、何か楽しげだ。
チェコの周りには、青しか無かった。
全てが、空の色に包まれている。
太陽は焼けるほど熱く、雲は微かにも見えない。
「俺も、長く生きちゃあいるが、ここまでの晴天は始めてだぜ」
一番後ろを歩くタフタも、畏怖したように囁いた。
この天には、鳥すらいない。
はるか下界には、大河遠吠え河の川筋が、果てしなく遠くまで見えていた。
「あ…!」
チェコは叫んでいた。
「あ…、あれ、雲だったのか…。
驚いたな、俺の足より下に、雲が流れていくよ!」
地平を、白い雲が、ゆっくりと動いている。
それも、チェコのブーツよりもずっと低い所の話で、その雲の影すらも、チェコにはよく見えた。
こんなに高い場所が、この世にあったなんて!
チェコは、歓喜に震えていた。
世界は、なんて広いんだろう…。




