首塚
板のように平たい石が、塔のように十メートル近く積み上がっていたり、また、ぞ、っとするほどパイ生地のように脆く、深々と崩れ落ちていたり、奇岩地帯は草すら生えない高山に、異様な陰影を湛えて青空に不気味な姿を晒していた。
「あ…」
チェコは気が付いてしまった。
「イヌワシ峠に登る道で、道から外れてしまった人間が引き裂かれて…、って…」
ああ、とヒヨウが。
「首塚は、この先だぞ」
首塚!
「ヒヨウも知っているんだ…」
それは、たぶん事実、という事だろう…。
「まぁな。
別に珍しい話しじゃないんだ。
もう、この辺の高山になると、人の居ていい場所ではない。
なんとか、道だけは通さしてもらってはいるが、道を外れたら襲われるのは、当たり前の、山のルールなんだ」
「え…」
チェコは、声を潜ませた。
「誰に…、襲われるの?」
ヒヨウは肩を竦める。
「知らん。
知る事の出来るものではない。
人が居ていいのは、草が生える場所までで、その上は別のものたちの住み処、と太古からの決まりなんだ」
チェコは、慌てて周囲を見回す。
「でも…、それじゃあ、人間が歩ける道って、もしかして、あそこなんじゃ!」
足元のはるか下を指さした。
ヒヨウは薄く笑った。
「そう。
エルフはこの辺を歩くことはあるが、人間は見かけない、と怒り出す奴がいてもおかしくはない。
が、日のあるうちは大丈夫だ。
ま、日が落ちて、こんな場所を歩いていたら、襲われなくとも命は無いがな」
平然と言い、ヒヨウは歩く。
出来るだけ端を歩かぬよう、板岩の上を歩いていく。
と、いきなり、周囲の岩が、開けた。
空だ!
チェコは、叫んだ。
チェコたちの左右は、すでに一面の青い空だった。
はるか下界にある緑は、ゴロタの森なのだろうか。
早朝の太陽が、世界中全てを鮮明に、鮮やかに照らし出していた。




