魔女の宴場
垂直に等しい岩場を、チェコたちは登った。
最初は苦労していたタッカーやキャサリーンも、慣れたのか、またはプルートゥへの畏れのためか、十メートル近い岸壁を易々と登って行く。
やがてチェコの顔を、強い朝日が突き刺した。
見ると、東にはイヌワシ峠の岩山がそびえていたが、その横腹から、太陽がまさに、昇ろうとしていた。
チェコが頭を出したのは、薄い板のような岩石が層をなして積み上がった奇観の只中だった。
黒々とした板石が、塔のように真っ青な空に向かって伸びていたり、逆に、巨人に殴られたかのように大きく崩れていたり、白蟻に喰われた木材のような岩石地帯が、見渡す限り続いていた。
「ここの石は崩れやすいから、俺の歩いた後を歩くようにしてくれ」
ヒヨウは言って歩き出したが。
彼の歩く右手側は、数十メートルの崖であり、その奥には、また虫食いのような岩壁が、チェコたちの視界を塞いでいた。
左側は階段状に岩がせり上がって高く伸びていたが、少し先で、脆くも崩れている様子だった。
そんな、崩れたり奇跡的に高い塔を作ったりしている奇岩が、はるか先まで続いているようだ。
「ここに出るのかよ!」
タフタは叫んだ。
「そうそう都合の良い出口は無い」
ヒヨウは背中で答えた。
「ここは歩くの大変そうだねぇ。
イヌワシ峠へ出ても、ここに来るの?」
チェコが問うと、ヒヨウは、いや…、と答える。
「イヌワシ峠からの道は、ほら、あそこの道に出る」
と真下を指差した。
チェコの右を遮っていた石塔が途切れると、百メートル程下に、細いが歩きやすそうな道が、白い筋になって見えていた。
「こいつぁ、魔女の宴場のド真ん中だ。
普通、歩く気にもならんペラペラの岩壁の天辺さ」
ヒヨウは肩を竦め、
「端を歩かなければ、そう怖れる事はない。
ただ、ここの岩は脆いから真ん中を歩けばいい。
それだけの事だ」
背後でキャサリーンが、タッカー君、大丈夫? と声をかけていた。
タッカーは、全く大丈夫ではない声で、
「…僕、高所恐怖症なんです…」
と声を震わせていた。
が、チェコたちは、まだロープで繋がっているため、タッカーに近寄る訳にもいかない。
全員は、各自用心深く、魔女の宴場を歩んでいった。




