穴の中
「もしかして、あたしたち罠に嵌まっちやってる、って事かしら?」
落雷の音にビビりながら!キャサリーンは聞いた。
ぬぅ、とタフタは唸り、
「とは言っても、現実、外に出たって命は無いぜ…」
チェコは、あっ、と声を立てた。
「洞窟、使えないかなぁ…」
ヒヨウに聞いた。
ヒヨウは細い眉をしならせて…。
「確かに、魔女の宴場辺りに出る穴もあるのだが、ちょっと厳しいルートだが、どうする?」
と、逆に問う。
「ヒルがいる、とか、言わなかったかな?」
ウェンウェイの言葉に、
「この辺は寒すぎるので生息していない」
一瞬、沈黙が広がったが、
「行きましょう。
このまま、ここにいて、奴らの思う壺になるよりいいわ!」
キャサリーンが宣言した。
チェコたちは、改めて荷物を背負い、岩壁を登る事になった。
ヒヨウが先に、軽々と壁を登り、ロープを落とす。
下でタフタが支える中、ウェンウェイ、チェコ、タッカーと登り、キャサリーンがロープを胴体に巻き付け、登っていく。
最後にタフタが、自分より高い壁を、ひょい、と上がった。
「では各自、足元に注意して、付いて来てくれ」
言うとヒヨウは、猫も頭を上げては通れないような低い穴に、するっ、と滑り込む。
雷鳴で震える岩の穴に、チェコも入って行った。
下る洞窟に頭から入るのは大変だったが、かと言って足からでは、先が見えないため、ヒヨウの姿を見失ってしまう。
逆立ちのような体型のまま、チェコは必死で下った。
どん、と神鳴りが落ちる度、岩が震える。
カンテラを口で咥え、油の臭いに噎せながら、チェコは右に折れ、左に曲がって、狭い岩下の隙間を縫っていく。
やがて、巨大な岩の下を、背骨を軋らせて通り抜けると、不思議な事にヒヨウのブーツが見えた。
岩穴を潜っている間に、いつか登っていたらしい。
ウェンウェイが続き、キャサリーンが意外な体の柔らかさで穴を抜けると、タッカーは二度目なはずなのに苦戦をし、タフタは先に背負った斧をタッカーに渡してから、ジリジリと穴を抜けた。
どん、と激しい爆音が響いた。
「こりゃあ、直撃かもしれんな?」
タフタが上を見上げる。
「えー、もう鬼の岩屋は無くなっちゃたの?」
チェコの問いに、いや、とタフタは笑い。
「穴なんて、また広げれば良いだけなのさ。
それが、山の暮らしだ」
山では、よくある事なのだと言った。
そこからは全員、ロープで繋がり、歩き始めた。
大きな岩を回るように下っていくと、どこからか水の音が聞こえてきた。
しばらく、平坦な砂地を歩いていくと、唐突に視界が広がり、チェコは地底の川を見た。
滝と言ってもおかしくはない急流が、闇の中から現れ、チェコの足元を濡らして、闇の中に流れ去って行った。
その川の脇を登り、螺旋を描くように、岩をゆっくり登っていく。
すると、岩の中の、大きな洞窟に出た。
「うわぁ…!
なんだ、この、白いつららは!」
チェコは思わず叫んでいた。




