白い子供
タフタは斧を手元に引いた。
チェコとウェンウェイも、いつでも攻撃スペルを使えるように構える。
「あ…、あのさ、俺…」
チェコは囁いた。
「雷しか持って無いけど、ここ、使っても平気?」
場所によって、可燃系のスペルはまずい、という場合がある。
金属だらけの場所で雷、も当然禁止だし、うっかりしがちなのは、脱穀中の水車などで火を使うと、大気中の穀物に引火する、などという場合もある。
「薪が惜しいが、ヤバかったら迷わず使え」
タフタは言った。
白い手は、力を込めて岩を掴んでいたが…。
「キキキキキキ…」
間近で、キリキリが大音量で鳴き始めた。
タフタは、一本、下がった。
「…」
微かな、声が聴こえる。
チェコたちは、戸惑い、視線を合わせる。
「…待って…」
酷く小さな、掠れた声だった。
「え、人間!」
チェコは叫ぶが、タフタは、待て、と制した。
「人を惑わす鬼かもしれねぇ…」
確かに…。
岩を握った、その手は、人間と言うには、あまりに白過ぎた。
と…。岩の上から、ずる、と真っ白い子供が飛び出してきた。
「うわぁ!」
チェコは叫んだ。
それは、死者よりも白い全裸の子供で、しかも身長はチェコよりも大きかった。
その体には、全く体毛はなく、ただ黒に近い茶色い縮れた癖毛が…。
はっ、とチェコは、二度見した。
「えっ、もしかしてタッカー兄ちゃん?」
よく見ると、それは全裸で身体中を白く塗り染めたタッカー、トラッテーロのようだった。
「えっ、ええー!」
タッカーは、真っ白な顔で驚愕の叫びを上げた。
「チェ…、チェコ?
何で、こんなところに?!」
タッカーの叫びと、キキキキキキ…、という鳴き声が重なる。
見ると、仔犬程の大きさのトカゲが、ロープで首を引かれて鳴いていた。
また、洞窟の奥から、真っ白なヒヨウも現れた。
「ん、チェコか?
鬼の岩屋にいる、という事は、外は雨か…」




