マカロン砦
チェコは、ん、と考える。
「あいつって、それほど強かったっけ?」
ウェンウェイは、
「あれは、お前のような子供を殺すつもりは無かったから、なんとか相手になっただけかな。
西方侯の敵、となったら、あの陰狼も何倍も大きくなり、マカロン砦の城壁を、バリバリと引き崩し、一瞬で潰して見せたかな。
奴は、ああした姿だから、子供のお守りなどもよく引き受ける、大の子供好きだから、子供を傷つけるのは嫌いかな」
あ、弟がどうとか、言ってたなぁ、とチェコは思い出した。
「でも、どのみち、この稲妻の中じゃあ動けないよね」
ウェンウェイは考え込む。
「たぶん…。
だが、何しろ悪魔だから、普通の人間、と考えると裏をかかれるかな。
なにしろマカロン砦は三方を海に囲まれた要害だったが、その海から攻めて、攻略して見せたかな。
もしや嵐の中を登って来るかもしれないかな」
へっ、とタフタは鼻で笑う。
「悪魔は来れたって、こっちは動けねぇんだから仕方がねぇ。
しかし、その悪魔は、坊主は殺す気がねぇんだな?」
「まぁ、たぶん、かな」
「でも俺、死んだふりはしたけどね」
タフタは、ハァ、と欠伸をし、
「そんなら、そのプーフとやらが来たら、まろびと、あんたは大人しく奴に殺されてくれ。
こっちは、ただ居合わせただけなんだからな」
「判ってるかな。
あんたたちに迷惑はかけられないかな」
「ウェンウェイさん、俺!」
チェコはスペルボックスを握り締めて、決意を告げようとするが…。
「キキキキキキ…」
チェコたちは皆、飛び上がった。
前に聞いた鳴き声であり、さっきより、ずっと明瞭だった。
それは、十中八九、キリキリの鳴き声に違いなく、しかも洞窟の奥から聴こえてきていた。




