なにか
人影は、ちら、と見えたが、直ぐに後ろに下がって見えなくなった。
人影ではあるが、この天候、この風の中で、何十メートルも下のチェコと視線を合わせる、などという芸当を、人間が出来るわけは無かった。
「ちさちゃん…。
今の、見た…?」
「、、強い、、力は感じたけれど、、遠すぎて何か、、までは判らないわ、、」
チェコとちさは囁きあっていたので、タフタもウェンウェイも気づかない。
「…臭い…、した。
人間じゃ…無い…」
パトスはチェコの服の中にいるので、聞こえていた。
「あれかな…。
道から外れた人を、引き裂いて殺した、っていう…」
喋っていて、ゾ…、と怖じ気が背筋を走る。
「、、そうかもしれない、、何か、、そういう者が、、わたしたちをみているのかも、」
チェコたちの囁きを、狂暴な風が吹き飛ばしていく。
ピカ、
と一瞬、山の全てが見渡せた。
「やべぇ、落ちるぞっ!
身を伏せろ!」
チェコは、倒れるように屈み込んだ。
ズンッ、
と、山が揺れた。
タフタが立ち上がり、叫んだ。
「走れ!
鬼の岩屋はすぐそこだ!
稲妻は、近くに落ちたぞ!」
チェコ自身、これほど近くに神鳴りが落ちたのは始めてだった。
ダリア爺さんから、光ってから幾つ数字を数えるか、などと聞かされたが…。
思う間もなく、神鳴りは落ちていた。
本当に頭の上で、発生したのだ。




