頂き
空は不気味に、唸っていた。
チェコたちは急斜面を必死に歩いているが、どっ、とチェコの体も浮くほどの風が、急ぐ足を阻んでいた。
雲の唸りと、風の金切り声の、ふとした隙間に、キキキキキ…、と、悲しそうな声が耳に入ってくる。
傾斜の中腹にあるという鬼の岩屋は、まだ見えなかった。
と、いうより周囲は、およそ光が全く無くなりつつあった。
山の頂き付近には、まだ星があるものの、チェコの頭上は既に黒雲だ。
「道が見えねぇ。
仕方ねぇからランタンを灯すぞ!」
タフタは言い、リュックを下ろす。
強風のため、なかなか火が点かない。
チェコたちは、タフタの周りに集まって、風避けになった。
火打石を諦め、着火のスペルを使う。
山では、出来るだけスペルを使わない方が良いのだが、とタフタは呟く。
「霊鬼が集まるから?」
チェコが問うと、タフタは、
「それもそうだが、スペル自体が、山ん中では普通に作用しなくなる。
山は、それ自体が一種の魔法なのさ。
だから、こんな小っちゃなスペル一つでも、高山では、どんな別のものを生んじまうか判らないんだ。
ま、それでも命には変えられねぇ」
ランタンが灯ると、再び四人は歩き出した。
「雨が降らないといいかな…」
ウェンウェイが呟く。
「うん、俺、雨具とか持ってないから…」
チェコが言うが、
「それもあるが、この先は、もう岩しかない場所かな。
こんな所では、雨はみな、滝のように流れてくるかな。
高山の雨は、平地とは全く別物かな」
へぇ…、と、チェコは山の頂上を見上げた。
えっ!
チェコは叫ぶ。
頂から、人影が、チェコたちを見下ろしていた。




