積み石
「ちさちゃんは大丈夫?」
チェコが聞くが、ちさは風など無いようにニコニコ笑い、
「、、大丈夫よ、、しっかりチェコに、、掴まってるから、、」
ゴゴゴゴゴッ、と頭上の雲が、まるで岩石が擦れたような音を立てた。
星空に、いつの間にか薄く雲が走りだしていた。
「やれやれ、酷い時に当たっちまったな。
岩屋で凌ぐにしろ、ゆっくり休めそうにねぇ…」
タフタはぼやく。
風は、高く唸って耳元を過ぎていった。
「これ、ドゥーガたちは平気なのかな?」
チェコは山の頂きを見上げた。
「たぶん魔女の宴場辺りで雨宿りだろうな。
雨上がりに出くわさなきゃ、良いんだが…」
「どのくらいで、雨は止むかしら?」
キャサリーンの問いに、タフタはうっそりと首を傾げ、
「短けれは二、三時間、長ければ二、三日、なんとも言えんよ」
と首を振った。
「食べ物だけは潤沢にあるかな!」
ウェンウェイは自慢気に言う。
チェコもウェンウェイも、巨体な骨付きハムを背負っていた。
樽のようなチーズもある。
チェコたちはロープで互いに結び合い、急勾配の岩の道を、縫うように進んでいく。
いくら天気が荒れているとはいえ、道を外れると大変な事になる、という。
「…どんな大変な事になるの…?」
怪談の続きを問うように、チェコが声をひそませた。
「実際には、何が起こるのかは判らねぇ、皆、死んじまってるんだからなぁ。
だが、俺が見たのは、ほれ、あそこの大岩にしがみつくように抱きついた、首の無い死体だった」
タフタが指差すのは、道をかなり外れた二メートルほどの大岩だった。
「足は、イヌワシ峠の頂上付近に、二つに裂けて落ちていた。
そして首は、魔女の宴場にある積み石の天辺に、なんかの呪いのように、きれいに立てて置かれていたよ。
積み石は、五メートルも石が自然に積まれたというもので、とても人間の力じゃあ、ぐらぐらで登れなかった。
しかし積み石は、どんな嵐でも決して崩れず、人が崩したりしたら祟りがある、と言われていた。
古老が言うには、よくある事だそうで、しばらくすれば落ちてくる、と言った。
三ヵ月後にな、腐った果実のように、積み石の下で潰れていたよ、古老の言う通りに。
まるで干しトマトのように縮んじまってな」




