雷鳥
チェコたちは走るように草原を抜け、やがて傾斜は急激にきつくなっていった。
さすがに、皆、無言だ。
空は、輝く星たちが地面を照らし、水墨画のように草原を見せていた。
白い道は、タフタが前を歩かなければ、至近距離では殆ど、それとは解らない。
しかし道は、確かに、この急斜面を、可能な限りなだらかに歩けるよう工夫されたもののようだ。
足元で、急に一羽の鳥が、ピイィィィ、と高い音で鳴いた。
「おおっ…」
チェコは驚くが、
「雷鳥が鳴いたか…。
やはり一荒れ、来そうだな…」
タフタは呟く。
「雷鳥?」
「普段は、すっかり隠れていて、猟師でも見つけられねぇんだが、山が荒れるとき、特に今ぐらいの時期に雹が降り、雷が落ちるような時にだけ、下の森まで響く鳴き声を上げるんだ。
この分じゃあ…」
タフタは背後を振り返った。
「夜明けまで持たないとも限らない。
最悪、鬼の岩屋に行きつけなければ、ロープで繋いで雹の中をお散歩、って事になっちまう。
急げ、後一時間もすると、夜が明けるぞ!」
チェコは焦った。
「え?
もう、そんなだっけ?」
「馬鹿野郎。
平地じゃねーんだ。
お天道さんが地面の底から登って来るのは、山じゃあ、ずっと早いんだよ!」
チェコも慌てたが、しかし斜面は細かい凹凸が幾つもあって、ひじょうに歩きにくかった。
でも、靴があるだけ、本当に幸運だったなぁ…。
と、チェコはミカに感謝した。




