風の潮目
「赤竜山のまろうどの里へ何かを届ける、とか、そういう事もやらなきゃあならんのが山に生きる人間の付き合い、ってものだ。
代わりに、自分が困ったら、まろうとや猟師にも助けてもらう。
そうでないと、とても山では生きてはいけない。
過酷な世界なんだ」
ふーん、とチェコが考え込むと、また、どかん、と風がぶつかる。
「判るか。
あっちへ行く風と、こっちに回る風があって、今は互いにぶつかっている。
空の潮目って奴だ。
西の雲は、風に乗って、こっちへ進んでいる。
今の、いい天気の風と、あの雨雲の風が今、喧嘩をしているのさ」
風が、喧嘩する…?
言葉を反芻しているチェコの体に、どん、と強い風が、また、ぶつかった。
「判るか。
喧嘩ってのは、こっちが手を出すばかりじゃない。
相手も手を出す。
相手に手を出させといて、雨雲の奴ぁ、どかん、と仕返してるんだ。
引いて、また押す。
そうやってるうちに、相手が崩れるのを待つ、のさ」
どん、と風がチェコにぶつかる。
チェコは、髪の毛をぐちゃぐちゃに風に揉まれながら、
「おお!
それって、デュエルと一緒だね!」
と発見した。
タフタは、また口をへの字に曲げながら、
「まぁ、そうだ。
パチパチ軽く仕掛けながら、崩れを見て、そして勝負を仕掛ける。
人も風も、そう変わりゃあしない事を覚えときゃあ、風も読みやすいだろう。
だが、この風の様子じゃあ、雨雲が来るのは意外と速いかもしれねぇ。
ここの平地、急ぐぞ」
タフタは足を早めた。
チェコは、タフタの背中を見ながら、
「あれ?
俺に風の事、教えてくれていたのかな?」
と、不思議な気分になっていた。




