霊鬼
「本当!
キャサリーンねぇちゃん!」
チェコは喜んで、つい叫び声をあげるが、タフタは、
「大きな声を出すんじゃねぇ。
今、俺たちがいるのは真夜中の山ん中なんだぞ!
あっちにもこっちにも、霊鬼がうようよしてやがるんだ。
夜に山道を歩くときは、決して道を外れちゃなんねぇ。
白い石の上だけを歩け!
そして、黙っていろ。
人の声は、そのまんま、体ん中の命の輝きを霊鬼に見せちまう。
それだけで、奴らはどんどん集まってくんだからな」
と囁いた。
「霊鬼って何?」
チェコがパトスに聞くと、
「オバケ…同じ」
おお、とチェコも納得した。
「でも、霊鬼なんて言葉、今まで聞いたことがなかったけど…」
「霊鬼は、厳密には、夜の子供や山女とかとは違うかな。
夜になると山は、この黒龍山じゃなくとも、人には見えない幽霊のようなもので満ちてしまうかな。
これは死者の魂であったり、鬼や、冥府と呼ばれる恐ろしいもので満たされるという事かな。
夜の山、夜の海、夜の湖、そういった場所は、本来、人のいるべき所ではなく、神の領域なので、太陽の庇護のない夜には、鬼の古井戸とほとんど変わらない、昼間とは全く違う霊鬼が溢れ出す場所となる、というかな」
鬼の古井戸と同じになる!
チェコは驚いた。
「禁則地…?」
「まぁ、そう考えてもいいかもな」
タフタは、喉の上で言葉を転がした。
「そう言やぁ、ヒヨウも、自分の足跡を踏んで歩け、って言ってたよ」
タフタはボソリと、
「それが正解だ。
エルフなら、俺らよりも霊鬼が読めるからな」
「霊鬼を読む?」
「エルフってやつは、伊達に鬼の古井戸守ってる訳じゃなねぇ。
小さな頃から鍛えていて、奴らぁ、見えるんだよ。
とんでもないモンがな」




