昔話
「わしは昔、西方候ユリプス様の宮廷錬金術師だった。
ユリプス様の第六公子ダウ様は、生粋の自由人で、度々街に遊び、森に憩う方だったが…。
ある時、森で美しいブロンドの女性と出会い、恋をし、そして生まれた子供がチェコだ。
ダウ様は、宮廷を出て、森に暮らす心を決められたし、そのつもりで貴族たちにも、官臣たちにも根回しをされていたのだが…。
ふとしたことから、その女性がアルギンバの直系と分かってしまったのだ。
現八候二四爵の王主と、アルギンバの血筋が結びついては、後々どんな禍が起こるやもしれぬ。
ダウ様は、幽閉同然に宮廷に引き戻され、女性はフロバァンヌの国を去った。
だが、もし生まれた子供があったことが知られたら、抹殺されるのは必定。
ダウ様に頼まれ、わしは生まれ故郷のヴァルダブァに帰り、このリコの村に落ち着いた、という訳じゃ」
さすがにキャサリーンも引き攣った。
「え? え? え?
なに?
アルギンバの直系で、しかもフロバァンヌ王家の直系だっていうの?」
「おそらく、フロバァンヌ王家は否定するだろうよ…。
だからチェコは単なる父なし子だし、母も、どこでどうしているとも、今になっては確かめようもないのだ」
「じゃあ、あの魔石は?…」
「母方の形見、という事じゃ…」
言ってダリアは、ぐい、と酒をあおり。
「そう…、
言ったら、お前さんは信じるかい?」
「え?」
ダリヤはにやりと笑って。
「そう…。
わしは真実を、もしかしたら語っているかもしれないが、しかし、どこにも証拠などはないのだよ」
言ってダリアは、新しく詰めていたパイプに、かまどの薪から火をつけて、フパーと煙を吐き出した。
キャサリーンは、どしん、と椅子に座り込んで。
「一杯、貰ってもいいかしら?」
ダリア爺さんは、後ろを向いて、コップを取り出し、カラフェに入れたギーム酒を、なみなみと注いだ。
「一つ、頼みがある。
あれは、おそらく、そこそこのスペルランカーにはなれるはずだ。
もし、都会の学校に入れればな…。
あんたが手を打ってくれるのならば、この金は要らん…」
そこにチェコが洗濯物を雑に山積みに持って階段を下りてきた。
「あ~何、キャサリーンまで酔っ払ってる!」
キャサリーンは、口を引き攣らせ、
「今日は酔うわよ…」
と呟いた。




