雨雲
タフタは不承不承という感じで。
「判りました。
これは女王様からの直接のお願いだ。
もちろん、約束は守りますよ。
小僧も、俺の言うことは守ってもらうぞ」
チェコは口を尖らせて、
「ちさちゃんも、りぃんも、ウェンウェイさんも一緒だからね」
「仕方ねぇ」
と吐き捨てるように言うと、
「いいか。
天気の良いうちにイヌワシ峠の麓まで登ってしまう。
早朝、峠の中腹の鬼の岩屋で休む。
たぶん、あの黒い雲は、普通の雨雲と思うが、夜では判らん。
時期としちゃあ、嵐ってことも無くはない。
それまで休みは無しだ。
判ったな」
問うのではなく、言い捨てて、振り向いて歩き出してしまう。
「なんか、感じ悪い人だよね…」
チェコは、パトスに呟いた。
「タフタ…真っ正直。
口は悪いが、嘘はつかない…」
「そうかなぁ。
ちさちゃんや、りぃんの事、悪く言ってたけど…」
「普通、影ヌリや片牙のことを避けるのは当然かな。
山の男は皆、迷信深いかな。
それにタフタは、よく空を読んでるかな」
ウェンウェイは、西の空を見た。
夜空なので、一見では判らないが、確かに…。
西の地平線に貼り付くように、どす黒い雲が近づいていた。
「俺たちは幸運かな。
ベテランの樵は頼れるかな」
髭だらけの顔をほころばせた。




