バブル
「にげるかな!」
ウェンウェイは、黒猫にかけた手綱を慌てて揺らした。
橇は思うより機敏に動きだし、磔刑の魔女に守られながらウェンウェイは、森の奥へ逃げていく。
「この糞爺!」
チェコが、このウェンウェイを守るために戦う間、ウェンウェイは、露程の力も貸さなかった。
そして、チェコの死を見ると、さっさと逃げる算段に入っている。
そのことにブーフは怒った。
陰狼は、森を揺らす程に叫び、ウェンウェイを追って走った。
いや…。
走ろうとした。
陰狼が怒りに任せて足を踏み出した、その一歩目で、巨体は、ごろん、と転倒していた。
「よーし、魔方陣に入ったぞ!」
むっくり、チェコは起き上がった。
「魔方陣、発動かな!」
ウェンウェイは、このために貯めていた大魔力を放出した。
ウェンウェイの持つアイテム、ギザの香炉は、短時間ならアースを貯める事が出来る。
ウェンウェイは、およそ十分間のアースを貯め、今、全てを放出していた。
「あはは、
俺は、地面スレスレに作った小さなバブルで、自分の体を守ったんだよ。
そしてー!」
チェコは、地面をコロコロ転がる小バブルを指差した。
「こいつで陰狼を転ばせたんだ!
ブーフ、俺の勝ちだね!」
バブルのスペルに大きさの上限はあったが、小さいほうは無い、というエクメルの解説から、チェコはバブルでの転倒作戦を考案した。
リスやウサギ、目立たない者からアースを引き出し、戦いの間中、チェコはバブルを作り貯めていたのだ。
殺し屋ピエロ、ブーフは、怒りに顔を歪めていたが、
ふ…、と笑った。
「仕方がない。
完敗だ、
弟も、君ぐらい知恵があったら、村が滅ぶ事もなかっただろうに、な」
たぶん…、とチェコは言った。
「もくじんさまの庇護を信じていたんだ、と思うよ。
それも間違いじゃない。
命のギリギリまで信じる事って、とても強い事だよ。
それに…。
村が無人になったとき、ブーフがどうなるのか、心配もしたんじゃないかな?」




