押す
チェコは陰狼の手の中で、必死に耐えた。
最初は手足で踏ん張ったが、やがて髪を集め、毛の力で体を保護した。
「多産の女王一号、出産、多産の女王二号、出産、そして!
再生したハンザキ三号、四号、に二つ頭!
二体とも陰狼を襲え!」
チェコを握った陰狼の手が、ぐらり、と揺れた。
ハンザキも七/七の体を持つ大型獣だ。
それが二つ頭を合わせると六体、陰狼にのしかかっていた。
「あのねぇブーフ。
自分が悲劇の主人公みたいに言ってるけどねぇ、
弟さんは、なんにも知らない、と本当に思っているの!」
陰狼の手の中から、チェコは叫んだ。
「その日の記憶が無くったって、弟さんはきっと、自分の責任に気づいていたに決まってるでしょう。
たぶんブーフと同じか、それよりもっと、弟さんだって苦しんでいたはずだよ!」
ブーフは黙っていた。
が。
「握り潰せ、陰狼!」
「多産の女王、及びそれが生んだ六体のウサギたち、エルミターレの岩石の効果によりアースを出せ!
八アースと俺の二アースで、森のリス、巨人化×二!」
森のリスは、いつの間にか、素早く陰狼の背後に回っていた。
それが瞬く間に頑強な巨人となり、陰狼の背中を、ぐい、と押した。
チェコは髪の毛を陰狼の手から飛ばし、魔方陣に入るように、力一杯、陰狼を引いた。
強力な握力が、チェコを襲う。
「踏み止まれ、陰狼。
餓鬼は、すぐ死ぬ!」
チェコは、血反吐を吐きながら、
「残りの森のリス、
木の実全弾、陰狼の目に撃ち込め!」
森のリスたちは、木に登り、陰狼の顔の近くに潜んでいた。
そこから、無数の木の実が陰狼の目に飛び込んで行く。
ギャア!
陰狼は、悲鳴を上げた。




