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嘘
「もちろん、元に戻るよ…。
それどころか、彼は今夜の記憶も無くして、家に帰るだろう」
僕は悩んだ。
弟が帰れば、あの子は何の悩みも無く生きていける。
だが、僕がこのまま森を出ても、きっと後悔しか残らないだろう。
僕は…」
ブーフの語りを、チェコが遮った。
「多産の女王、出産。
森のリス、三体まとめて召喚!」
チェコは叫び、
「あのねぇ!
いつまで、その嘘話を続けるつもりなの!
その話が本当なら!
今、あんたが喋った事で、大事な村は滅んでる、って話でしょ!」
結構本気で聞いていただけに腹立たしい。
ブーフは、アハハと笑い、
ついで、重い顔を見せた。
「村はねぇ…。
とっくの昔に、戦争で滅んだんだよ。
僕も、ウェンウェイも駆けつけたんだが、間に合わなかったんだ…。
弟は、もう六十の老人だったが、甥や姪、その子供たち、全てが村ごと滅んでしまったんだ…」
え…。
チェコは、途方にくれた。
その瞬間。
陰狼の巨大な手が、チェコの体を掴んでいた。




