家柄
「ねぇ、じいさん。
この人、泊めていいでしょ?」
ダリアじいさんは、煙草の煙を、ふぁ~、と吐き切ってから、
「事故って何だ、それをまず言え」
と、用心深く聞いた。
何か言いそうなチェコを制してキャサリーンが。
「私の乗っていた馬車が壊れてしまって。
ちょうどチェコ君が通りかかって、荷物を運んでくれたんです。
それで…」
キャサリーンは伏し目がちにダリアじいさんを見つめた。
「出来ればチェコ君に、隣のハジュクまで送って欲しいな、と思ってるんです。
彼が、なかなか腕の良いスペルランカーなので…」
ふん、とダリアは鼻で笑い。
「あんた、このチビが、夢見がちにスペルランカー、スペルランカー、言っているのを信じとる、と言うのかね?」
チェコが言い返しそうなのをキャサリーンは制して、
「彼、森で言いがかりをつけて来た男を、スペルランカーとしてやっつけてくれたんですよ。
彼、なんて言ってたかしら…」
「国内大会ベスト八!」
チェコが叫んだ。
「そうそう。
ベスト八を倒したんですよ!」
ダリア爺さんは、パイプの灰を灰皿にあけ。
「おおかた、この近所の馬鹿だろう。
自分を大きく見せようと、軽薄な嘘をつくバカは、どこにでもいるもんだ…」
「でも…」
と言い縋るチェコを制して、キャサリーンは部屋に入って行く。
「ダリアさん。
もしチェコ君がハジュクまで私を手伝ってくれたら、これを差し上げますわ」
ずっしり、と詰まった布袋を、テーブルに乗せた。
口紐を開くと、何重枚という金貨である。
ダリアが黙った。
「おい、チェコ。
お前、ちょっと上に行って、洗濯物を取り込んでこい、パトスもだ!」
チェコたちは、バタバタと二階に行く。
「あの子…。
ちゃんとした家柄の子供なんでしょう?」
ダリアは、ちらっとキャサリーンの顔を見、ラジオカードを横にして、音楽を止めた。




