ヤマボウシ
ブーフはなぜか、昔話を始めた。
チェコは陰狼の手から逃れながらも、つい聞き入ってしまう。
「おーい、と僕は、また叫んだ。
その三又の大杉は、どこにあるんだー、ってね。
すると、
ヤマボウシの光る実を辿って行けば、すぐだぁ…、
弟の声が言うんだよ。
ヤマボウシの赤い実は、なるほど目立つが、こんな夜中に見えるわけがない、と思ったんだけどね、
ランタンを退けて見ると、森の中に点々と、赤く光るヤマボウシの実が、なるほど道を教えるように、光ってるんだ。
僕は走った。
まぁ、森だから、気持ちほどの速度は出ていなかったけど、心の中では走っていた。
すると、あった。
おそろしく巨大な、まるで貴族のお屋敷のような木が、根の近くから三本に分かれて広がっている三又の木だ。
その根の洞に、なるほど子供なら入れるぐらいの小さな木の扉が付いているんだ。
小さな覗き窓があって、中から、暖かな火の光りがこぼれていた。
僕は用心深く、一回、ドン、と扉を叩いた。
すると、扉の中から、男の声がした。
こんな夜更けに、なんじゃあ、って。
僕は言った。
弟を探しているんです。
ここにいるって、…あの…、弟から聞いて…。
言ってて、自分で、おかしいな、とは思ったんだが、でもね、
その時、ぎぃ、と扉は、開いたんだ」




