凝視
能力として、スペルを使っているのなら、デュエルの場合、そのターン、ブーフは攻撃に参加できないはずだ。
また、己のライフを削ってスペルガードを使うのならば、一定以上のスペルを使えば、ブーフは死ぬ。
不老不死と言っていたので、死なないかもしれないが、近い状況まで追い込めれば、何か面白い事が起こる可能性もあった。
乱戦…。
だが、問題はもう一つ、かなり遠いはずだが、疫病の粘菌が、たぶん、ここに向かっている…。
戦うにしても、出来るだけ早期に決着出来ないと、粘菌の数にもよるが、甚だしく不利になる…。
ん、と、一瞬、迷ったが、チェコは空中に髪を跳ばした。
「召喚、森のリス、及び、多産の女王、以上!」
リスは、リアルに召喚すると、当たり前だが現実の大きさになるので、とても小さい。
多産の女王も、五/五の召喚獣だが、ルックスはウサギなので、今一つ、迫力に欠けていた。
「馬鹿め、詰んでる、と教えなかったか、糞餓鬼!」
ブーフは叫びながら、腹を抱えて笑っていた。
陰狼は、ハンザキを踏み潰そうとした。
が、明らかに雑だった。
ハンザキは、逆に、陰狼の袋はぎに敏捷に噛み付いていた。
「行け!
ハンザキ二号!」
三号、四号は、まだ再生中だった。
リアルバトルにおいて、再生能力は、かなり時間がかかるらしい。
チェコは空中を旋回し、敢えて陰狼のすれすれを飛んだ。
陰狼は、唸り声を響かせながら、チェコに手を伸ばすが、チェコは、後方の髪を短くして、急上昇して、陰狼を避ける。
その間に、ハンザキ二号が陰狼の、ハンザキが噛み付いていない方の足に、襲いかかった。
怒り狂った陰狼の叫びが、夜の森の中に響きわたった。
チェコは、そうしながらも、ブーフの動きを凝視していた。




