事故
「ダリアじいさーん、帰ったよー!」
リコの村の一番外れ、あまり日の当たらない東向きの狭い敷地に、沢山のガラクタが積み上げられ、その奥に、掘立小屋同然の二階家が危なっかしく建っていた。
入ってすぐは工房で、錬金術師らしい金属加工や、村の鍛冶屋も兼ねているので、錆びた農工具なども無数に置かれ、足の踏み場もない。
工房奥への扉を開けると、しわがれた声が飛んできた。
「チェコ!
いったい、いつまで遊び惚けとるつもりだ!
もう七時だぞ!
パトスも、お前が付いてて、なんでこんなに遅くなる!
二人とも、飯抜きにしちまうぞ!」
工房の奥は、居間、兼、台所のような生活感あふれる場所で、壁に貼ったラジオカードからは、年寄りに人気がある古い民謡、クェーガーの、ぐるぐるコブシを回す歌声が響いていた。
ダリア爺さんは、腰の曲がった老人で、パイプ煙草をもくもく燻らせながら、どうやら度の強いギーム酒を一杯やっているらしい。
肴に、乾燥させたタラを焼いたものが、どかん、と大皿でテーブルに乗っている。
「言ったじゃん!
森で、動物をスペルカードにしてくるって!」
「もっと早く、帰らにゃいかん、と言っとるのだ!」
「ちょっと色々あったんだよ、じいちゃん!
えーとねぇ、森で、事故があったの!」
「事故だと!
お前、まさか馬車に傷でも作ったんじゃないだろうな!」
「違う違う!
事故にあったのはぁ…」
チェコは、わざと溜めて、
「この人でしたぁー!」
さっと体をずらす。
ノリのいいキャサリーンは、扉から体を覗かせて。
「どうもー!
コクライノでスペル開発をやってるキャサリーン・ギブツでーす!」
満面の笑顔を浮かべた。




