聖なる炎
「、、チェコ、、念のため、、木の枝には近づかない方がいいわ、、」
ちさは注意する。
が、周囲は一面の森であり、ゴロタの森のような密林とは違ったが、特に上空は針葉樹の枝が生い茂っている。
枝に近づかない、となると、チェコの通るルートは、ずいぶんと限られる事になる。
「ぬぅ…!」
チェコは、怒気を込めて唸った。
枝を避けて飛んだチェコに、不意に、巨体な手が襲いかかった。
ブーフの指図だろう、陰狼は、チェコの飛ぶルートに待ち構える戦術に切り替えていた。
チェコは、全ての髪の毛を手解き、自由落下した。
髪を伸ばしたまま、なので、切ったときより、チェコは滑空して落ちていく。
陰狼の目の前を、ふわり、と横切り、もう片方の手が現れたのを見てから、上に髪を伸ばした。
髪の毛は、くるん、と枝に巻き付き、チェコが、くん、と浮かび上がると、陰狼の指先を蹴って、頭上に飛び上がっていく。
が…。
「バカめ、お前はもう、詰んで、るんだよ」
チェコの頭上に、ブーフが現れた。
手には、どこから持ち出したものか、短刀を持っていた。
銀の鋭利な輝きが、闇に、ギラリ、と刺さった。
「雷!」
チェコは、必死にスペルを発動させた。
ギャハハ、と殺し屋ピエロが、ヒステリックに笑った。
「頭、悪いなお前!
僕に、そういうのは効かないって言っただろ!」
爆笑するブーフの顔を掠めて、雷は上空に立ち登っていく。
「なっ…」
ブーフが、言葉を失った。
ブーフの真上の木の枝が、爆ぜていた。
はっ、と見上げたブーフの体に、燃えた木の枝が落ちて来る。
「喰らえ、聖なる炎!」
チェコは、コニャックをブーフに吹きかけた。
ごぅ!
ブーフが、燃え上がった。
ギャア、という叫びを背に、チェコは森を進んでいく。
「ウェンウェイさんのところに急ぐよ!」
チェコは、叫んでいた。




