炎
チェコは、あちこちに伸ばしていた髪の毛を元に戻し、頭頂部の髪のみを前方の木に巻き付けて、一気に加速した。
闇に、彗星のように、松の炎が赤くたなびいていく。
「行ッけぃ!」
チェコは叫ぶ。
が、負債の天使は、巨体で機敏に振り向いた。
同時に、手を伸ばして来る。
「やはり罠である!」
エクメルが叫んだ。
そして、チェコも叫んでいた。
「二つ頭!」
二つ頭のスペルは、防御で使うとき、敵に幻の分身を攻撃させる。
負債の天使が伸ばした手の斜め横に、チェコは飛び出した。
「喰らえ!」
コニャックを、ぶっ、と口から吹き、松の火で、火炎にした。
闇に数メートルの炎が吹き上がり、
ぎゃあ!
と、負債の天使ガルムは叫び、チェコから遠ざかった。
が、それ以上の変化はない。
「やはり、只の民間伝承に過ぎなかったのである」
エクメルは勝ち誇った。
「なんだよ!
エクメル、何で暗黒波を撃たなかったの!」
チェコは怒鳴るが、エクメルは、
「もし通用しなかったらエネルギーの無駄だからである」
平然と反論した。
ウキーッ!
とチェコは吠え、
「自分は、確か、叫んでる間に撃て、とか言ってたでしょ!」
と叫んだが…。
「チェコ、アソコニ…」
りぃんが指差す、遥か先には、ちさがピョンピョン跳び跳ねていた。




