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コニャック
負債の天使ガルムは、闇の中で尚黒く、鈍い艶を放っていた。
エクメルの暗黒波が効いたのか、チェコから逃げているように見える。
「よーし、今のうちに一発お見舞いして…」
チェコは勢い込むが、エクメルが。
「主よ、奴はわざと誘っている可能性がある。
迂闊に近づかない方がよい」
「触レラレレバ、奴ノ勝チ!」
りぃんも言った。
「そっか…。
それなら!」
チェコは、下に髪を伸ばしていく。
しゅるっ、とチェコが地面から手繰り寄せたのは枯れ枝だった。
靴の底で枝を挟んで固定し、火打ち石とナイフで火を点ける。
よく枯れた松の枝は、たちまち燃えた。
「チェコ、何ヲスルノ?」
「えへへ、ここへ来る前、ミカさんって人に、上等なコニャックを貰ったんだ」
小さな錫の瓶を見せた。
「魔物は、聖なる火、つまり神酒の火に弱いんだよ」
「それは不確定な伝承に過ぎず、まして天使クラスに通じるものかは判らない、のである」
「やってみる価値はあるさ!」
チェコは大乗り気だった。
一方、闇より黒い負債の天使は、ずんずん森の奥に飛んでいく。
チェコの隣に、怨霊が戻った。
「よし、天使をやっつけるぞ!」
チェコは叫んだ。




