背後
「やばっ!」
チェコは髪の毛を、真上に伸ばす。
ブーフの頭を飛び越えながら、チェコはスペルを発動させた。
「バブル!」
ブーフの体を、丸くシャボン玉が覆いつくした。
怒りに目玉を見開いて、何か叫んでいるブーフを後に、チェコは上空に逃げた。
だが、ガルムは一直線にチェコを追ってくる。
「チェコ、アンマリ上ヘ行クト、木ノ枝ガナクナル」
「あっ、そうか…」
言ったものの、ガルムはピッタリと背後にいた。
ガルムの腕が、伸びてくる。
「くそっ!」
チェコは、自分の髪を、ナイフで切った。
すっ、と自由落下して、改めて髪を、斜め後ろに飛ばした。
ぐん、とチェコは飛翔して、素早くガルムの背後についた。
「エクメル!」
エクメルが、黒く輝くと同時に、黒球を打ち出した。
振り返ろうと動いたガルムの横っ腹に、暗黒波が刺さった。
ガルムが、吹き飛んだ。
落ちて行くガルムを見ながら、チェコは、
「あっ、ちきしょう、あと雷一発で倒せたかもしれないのに!」
「主よ、実戦では自分のターンは一瞬なのだ。
叫ぶ間に、撃つのなら、躊躇い無くスペルを発動させるのだ」
「うん…」
チェコは、墜落したガルムを追って、針葉樹の森の深みに消えた。




