悪戯
バブルのスペルは、スペル無効化と同じ水のスペルで、水らしいトリックコマンドだった。
戦闘においては、泡で包んだ召喚獣は浮き上がり、攻撃も出来ない代わりにダメージも負わない。
だから、強力な敵に付けて術者を攻撃させ、バブルで無効にすることも、また味方のキー召喚獣を敵の攻撃から守るのにも使える。
また日常では、今のように、素手で持てないものを、バブルを使って運ぶことも出来た。
錬金術でも、赤々と溶けた鉄を運んだり、チェコも使い慣れているスペルだ。
チェコとりぃんは、二人の悪戯っ子のように、声を殺して笑いながら、陰狼の頭上を滑るように進んでいた。
目ざすのは、陰狼の背後に浮いているピエロ、ブーフだ。
この気取った大人子供が、チェコやりぃんには、何か気に入らない。
大人に媚びているだけじゃないか。
そんな気もする。
魔物に魂を売ったから、いつまでも子供、だ、なんて、そんなに偉い事か?
そんな気持ちもあり、又、チェコもりぃんも、同年代の友達など、今まで全くいなかったせいもあり、二人は、この事件の間の僅かな時間で、すっかり仲良くなっていた。
髪を、細く細く伸ばして、その上をスルスルと、音を立てずに歩いていく。
ブーフの頭の真上まで来たら…。
このプンプン怒りまくっている蜂の巣を、着飾った奴の頭の上に、落としてやるのだ。
心の中で笑いながら、チェコとりぃんは歩いていく。
陰狼は、唸りながら、周囲の木々を殴り倒し始めた。
チェコたちが、けっして逃げてはいないのは、気づいているのだ。
だが、これだけ茂った夜の森で、りぃんの憑依したチェコを見つけるのは不可能だ。
よし、もう少しだ…。
チェコは、ブーフの頭の上に至る木の枝に、髪の毛を音も無く伸ばした。
瞬間。
「馬鹿め。
餓鬼の遊びはこれまでだ!」
ブーフは叫び、火炎弾のスペルを、チェコに向かって放っていた。




