陰狼の本気
なにっ! とブーフが叫んだ。
短く、雑に、ダリヤ爺さんに切り揃えられたチェコの髪は、突然、八方に伸び広がると木の枝に巻き付き、チェコは飛んだ。
「アハハ。
魂を売って、その程度かい、どじブーフ!
気取ってるだけで、とんだ無能だね!」
闇の中から、チェコが嘲る声が響いてくる。
「糞ッ、あの餓鬼めが!
ブチ殺してやる!」
ブーフは、薄く輝くと、空中に浮いた。
そして、
「早く立ち上がれ、トンマな陰狼め!
判ってんだろうな、もし主命をしくじるような事があれば、僕は、闇の天使ドルェヴァを呼び出して、魂の器を変える。
そうなったら、陰狼。
お前など、その辺の夜の子供と変わらない存在に落ちるのだからな!」
陰狼が、ぐうぅ、と唸って、立ち上がった。
と、同時に。
今まで二足歩行していた陰狼は、前足をつき、獣のように走り出した。
チェコは、もみの木の、かなり上の枝に登っていたが、陰狼が走るのは見えていた。
「やばっ!
奴が本気になった!」
「ダイジョウブ、
狼ハ、木ニ登レナイ」
りぃん、が笑った。
が…。
ドスン!
とチェコの登った大木が、陰狼に体当たりされると、あっさりと軋みながら傾いていく。
「うわぁ!」
チェコは、闇の中に落ちていった。




